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スネークがジャングルに舞い降りたとき、そのはるかかなたを飛んでいたのは、どの宇宙飛行士だろうか。
(文:伊藤計劃)


STS-107、それがあのミッションにあたえられたフライトナンバーだった。
STSはSpace Transportation Systemの略だ。フライト番号107。そのミッションが、あの船が遂行した最後の飛行になった。

英語では船はsheと女性名詞で指される。クリストファー・コロンブス、その女性名詞がその船の名前だった。
2003年2月1日、スペースシャトル、コロンビア号はミッションSTS-107を終え、フロリダのケープ・カナヴェラルへと帰還するところだった。その船がテキサスの上空までやってきたとき、機体は爆発した。それまで、その機体が宇宙の真空と放射線から守ってきたはずの、7人の命といっしょに。

宇宙へ行くことは、いまなお大きな危険がともなう。シャトルを構成する部品の数はすさまじい数で、飛行の手順も膨大な数になる。関わる人間の数もそれにふさわしい数だろう。そのどこかで致命的な間違いがおこらないと期待する方が、もしかしたら間違っているのかもしれない。20年前のチャレンジャー号爆発事故の調査報告で、調査委員のひとりが、氷水の入ったコップにゴムをぽちゃんと落とし、その、Oリングという重要な部品を構成するゴム素材の弾性があっさりと失われてゆくのをあっさりと示したとき、「こんなことで、あの、科学技術の粋が」と、どれくらいの人が脱力感に襲われただろうか(もっとも、原因はOリングの弾性劣化ではないという話もあるけれど)。
膨大な構成要素からなるシステムのどこかに、どんな致命的要素がひそんでいるか。それをすべて見つけだすのは、究極的には、たぶん不可能だろう。


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