シャドー・モセス事件(前作)以後、闇武器市場(ブラックマーケット)は事件の首謀者リボルバー・オセロットが流出したメタルギアの技術情報でもちきりだった。その情勢下で生まれた反メタルギア組織「フィランソロピー」が結成される。メンバーとなったソリッド・スネークとハル・エメリッヒ(オタコン)は、新型メタルギアが海軍の手により極秘裏に輸送されるという情報をつかむ。スネークは、ニューヨークのハドソン川を航行中の偽装タンカーへ潜入する。だが、その潜入にあわせたように、タンカーは元ロシアの女兵士オルガ・ゴルルコビッチが率いる武装集団によって制圧されるのだった。海軍、武装集団、リボルバー・オセロット。水陸両用のメタルギア・レイをめぐる3つどもえの戦闘のすえ、タンカーは沈没する。
タンカー沈没事件から2年後。流出した大量の油を処理するため、マンハッタン沖に海洋浄水施設「ビッグ・シェル」が建設された。そのプラントが「サンズ・オブ・リバティ(自由の息子たち)」と名乗る武装グループによって占拠される。サンズ・オブ・リバティのリーダーの名前は、死んだはずのソリッド・スネーク! 彼は視察に訪れていたアメリカ合衆国大統領を人質にとり、元対テロ訓練部隊デッドセルとともにビッグ・シェルに大量の爆弾を設置、多額の現金を政府に要求した。もし仕掛けた爆弾が爆発すれば、科学災害を誘発し、湾岸は有史以来最悪の環境破壊に見舞われる――。
政府は新生FOXHOUND部隊の出動を要請。バーチャルリアリティで訓練を積んだ隊員「雷電」が派遣される。彼は水面下よりビッグ・シェルに接近、単独潜入任務(スニーキングミッション)を開始した。
潜入を進めるごとに雷電の作戦には不協和音が響き始める。イロコィ・プリスキンと名乗る、謎の兵士の出現。サイボーグ忍者の登場。そして絶対に弾があたらない不幸の女王フォーチュン、不死の男ヴァンプ、爆弾魔ファットマンといったデッドセルたちとの戦い。そして、死んだはずのソリッド・スネークがリボルバー・オセロットとともに姿を見せる。
やがて雷電が、大統領のもとへたどり着いたときに、この不協和音の正体が見えてくる。ソリッド・スネークを名乗る犯人の正体はソリダス・スネーク。ソリダス・スネークはこの「ビッグ・シェル」を起点にテロを起こし、アメリカに新世界OUTER HEAVENを築こうとしていたのである。
彼らの目的は、ある存在への抵抗だった。その存在とは「愛国者達」――アメリカの財界、政界、軍部を超越した存在であり、大統領も議会も全て彼らの操り人形に過ぎなかった。そして、この「ビッグ・シェル」占拠事件すらも「愛国者達」のシャドー・モセス事件のシミュレーションであった。新生FOX HOUND隊員の雷電はそのシミュレーションの対象者だったのである。
操られる者、操られることに抗う者、操ろうとする者。ソリダス・スネークは新型巨大メタルギアの「アーセナルギア」を起動すると、愛国者達に叛旗をひるがえす。鉄壁の要塞がアメリカ合衆国議会旧議事堂フェデラルホールへ上陸する。雷電の前にソリッド・スネークが現れ、自らの行動を問う。
2000年1月23日、プレイステーション2の登場。それが『メタルギアソリッド2』にとって、最も大きなドライブになった。プレイステーション2はエモーションエンジン(EE)というCPUと、グラフィックシンセサイザー(GS)という描画チップを持っている。エモーション(情感)を描くというコンセプトを持つ、このゲーム機は「空間の匂いや雰囲気を描き、今までにない緊張感を表現する」(小島監督)という『メタルギアソリッド2』のコンセプトにぴったりだった。
GSの驚異的なフィルレート(塗りつぶし機能)をフルに使い、半透明で影や雨粒、霧、銃撃の煙などを描く。見事に描かれたゲーム空間の湿気や淀んだ空気は「敵に見つからずに潜入する」という『メタルギア』シリーズの緊張感に新しいエッセンスを加えることに成功した。
また、フィールドに500近くの光源をおき、微妙なライティングで空間の空気感を表現するなど、演出的な表現も向上。まさしくプログラマーの技術(テクノロジー)と、デザイナーの技術(テクニック)が見事にかみ合わせられた作品に仕上がった。約3300のモデル(キャラクター)数、53000パターンのモーション(動き)、約10000種類の音声などの膨大なデータを詰め込んだ一本。アメリカ最大のゲームショウ「E3(エレクトロニック・エンタテインメント・エキスポ)」で最優秀賞を取ったこともうなずける技術力だった。
まさにプレイステーション2という自由なフィールドから生まれた、ゲーム「サンズ・オブ・リバティ(自由の息子たち)」。
ゲームとしての新しい空間表現が、ここにある。
冷戦時の1957年、アメリカ国防総省はソ連との軍事拡大競争に抵抗するためにARPA(高等研究計画局)を結成した。この局が研究・開発した技術のひとつにコンピュータ同士によるネットワーク網があった。1969年にARPAが発表したARPANETをベースにして、やがてインターネット(INTERNET)が誕生する。1993年にゴア副大統領は「NII(情報ハイウェー構想)」を宣言。全米中にネットワークは広げられた。そして現在、ありとあらゆる情報がデジタル化されネットワークを巡るようになったのである。
「DNAが遺伝情報として生物の進化過程を残すのならば、人の記憶や思想、文化や歴史を残すことがデジタルの役割である」とAI(人工知能)が本作のクライマックスで雷電に語りかける。
AIのセリフの内容は、図らずもオックスフォード大学の生物学者リチャード・ドーキンスが1976年に著書『利己的な遺伝子』の中で提唱した「ミーム(meme)」という概念に近い考え方だ。「すべての文化はミームと呼ばれる原子のようなもので組まれている。遺伝子が精子と卵子を通じて人から人へと伝えられるのと同じように、ミームは心から心へ受け継がれていく」と彼は定義した。そして競争に勝ったミーム、すなわち最も多くの心に入り込むことに成功したミームこそが、今日の文化を形作っているのだ。
本作のセリフでは、このドーキンスの主張をネットワーク時代に置き換えたものと言っても良いだろう。つまりミームそのものがデジタル化され、ネットワークを介して受け継がれていく時代の物語なのだ。
すべての文化や情報がデジタル化され、数値化して受け継がれており、人間すらも数値化されていく時代。1990年代に入り、アメリカとイギリスが協力して、人工衛星などを使った通信やネットワークを監視する全地球的な通信情報傍受システム「エシュロン(Echelon)」を構築しているという情報が流れた。同様に本作においても、愛国者達(ホワイトハウスという重力場で産み落とされた念のかたまり、アメリカという国家のミーム)が、全デジタル情報を検閲・管理していることを暴露する。
そのデジタル化の中で、はたして人間はどうやって生きていくか。それが本作の投げかける問題なのである。この物語は未来の物語ではない、いずれ避けては通れない「今そこにある危機」を描いているのだ。