MGS2 パッケージ
METAL GEAR SOLID
[ 1998.9.3 ] PlayStation
METAL GEAR SOLID INTEGRAL
[ 1999.6.24 ] PlayStation
METAL GEAR SOLID THE TWIN SNAKES
[ 2004.3.11 ] NINTENDO GAMECUBE
METAL GEAR 20th ANNIVERSARY METAL GEAR SOLID
[ 2007.7.26 ] PlayStation
METAL GEAR SOLID GAME ARCHIVES
[ 2008.3.21 ] PlayStation3 / PlayStation Portable

20世紀最高のシナリオ

スクリーンショット

 21世紀初頭――。
 アラスカの孤島シャドー・モセスで演習をしていた特殊部隊FOXHOUNDが突然、反旗を翻した。彼らが要求したのは「史上最強の兵士ビッグボスの遺体」。引き渡さねば24時間以内に核を発射すると通告したのだ。
 事態を重く見たアメリカ国防長官ジム・ハウスマンは、特殊部隊FOXHOUNDの元司令官のロイ・キャンベル大佐を作戦指揮官に任命。アラスカで隠居生活を送っていた、ソリッド・スネークに出動要請をかけた。スネークの任務は2つ。人質となっているDARPA(国防高等研究計画局)の局長の救出。武装集団の核発射能力の有無の確認、発射が可能な場合は阻止することである。作戦はスネークの単独潜入任務(スニーキングミッション)。スネークの体内に埋め込まれたナノマシンと無線を通して、キャンベルが指揮し、メディカルスタッフのナオミ・ハンターとソリトンレーダーの開発者であるメイ・リンがサポートする。スネークは体に不凍ペプチドの注射を打ち、氷点下の海を潜水し、潜入を開始した。
基地内では遺伝子操作されたゲノム兵が厳重な警備を行っていた。スネークは基地内で異変に直面する。彼が救出した人質は、なぜか心臓発作を起こして死に至るのだ。この基地で何が起きているのか。内通者ディープ・スロートと執拗に戦いを挑もうとするサイボーグ忍者の出現に惑わされながらも、スネークはキャンベルの姪であり、FOXHOUNDの隊員メリル・シルバーバーグと合流し、基地の闇の奥へと突き進んでいった。
テロリストは、拷問のスペシャリストでありリボルバーの名手、リボルバー・オセロット。ターゲットを殺すまでに愛する女性スナイパー、スナイパー・ウルフ。ネイティブアメリカンの教えを信じる怪力の殺戮者バルカン・レイヴン。世界最強の念動力と読心術を持つサイコ・マンティス。体内に流れる血までも偽装するデコイ・オクトパス。そのメンバーを圧倒的なカリスマで率いる首謀者リキッド・スネーク。彼らは狡猾な罠を仕掛け、スネークを狙う。
 基地内でスネークはメタルギアの開発者であるハル・エメリッヒ(オタコン)と出会い、この基地に隠された秘密を知る。ここでは新型核兵器をレールガンで発射する歩行戦車「メタルギア・レックス」の演習が行われていたのだ。政府と死の商人アームズ・テック社が癒着し、秘密裏に開発が進められていたのである。核の削減が叫ばれている中、新型核の実験を続ける政府のタカ派、核を奪おうとするテロリストたち。人々の知らない極寒の地で、世界の運命を左右する闘いが起きていたのだ。
「ひさしぶりだな、兄弟!」
 地下でリキッド・スネークと対峙するソリッド・スネーク。同じスネークの称号を持つ者。ソリッドとリキッド。2人は最強の兵士を作り出す極秘プロジェクト「恐るべき子ども達(アンファン・テリブル)」計画により生み出された「ビッグボスの遺伝子を受け継ぐ兄弟」だった。呪われた遺伝子を持つ、ふたりのどちらが生き残るのか。ビッグボスの遺体の行方は? 人質の突然死の原因とは? メタルギアをめぐり、宿命の戦いが始まろうとしている。


「メタルギアソリッド」の挑戦

 6年の長い眠りから『メタルギア』が目を覚ましたのは、プレイステーションというゲーム機の登場がきっかけだった。プレイステーションはテレビの放送などで使われていた高度な3Dコンピュータグラフィックス(システムG)の描画機能を採用する「グラフィックのシンセサイザー」というコンセプトを持っていた。「プレイステーションならば『メタルギア』の世界を、3次元的に広げられる。建物の下に潜んだり、換気口から潜入したり、立体的な潜入が行える」と小島監督は考え、新作に挑戦したのである。
 プレイステーションは1994年12月3日にソニー・コンピュータエンタテインメントが発売。大きなデータ容量のCD-ROMを採用し、実写映像やMIDIによるサウンド機能などを搭載していた。その機能を『メタルギア ソリッド』は見事に使い切っている。
ゲーム中に挿入される、核兵器発射や遺伝子配合の実写映像。声優の吹き替えにより、しゃべる登場人物。自由に切り替えられる主観視点(仰視)と客観視点(俯瞰)。コンピュータグラフィックスで描かれたキャラクターたちは演技し、物語をつむいでいく。
 また、プレイステーションのコントローラには振動機能がついていたが、本作での使い方は驚くべきものだった。なんとコントローラの振るわせることによりプレイヤーの肩をマッサージしたり、床でコントローラそのものを動かしたりといったギミックを採用したのだ。小島監督はソニー・コンピュータの幹部の目の前で「どうです、コントローラが震えて、動くでしょう!」とプレゼンテーションを行い、企画を押し通したのだという。プレイステーションの規格の限界に挑む、『メタルギア ソリッド』の挑戦はここから始まったのである。

ポスト冷戦のミクロとマクロ

 ミクロとマクロのカオス。本作『メタルギア ソリッド』は、1990年代「冷戦以後」の世界情勢に提起された、巨大なテーマと極小のテーマを内包したゲームだった。
ひとつは世界に拡散する「核兵器」の問題。もうひとつは遺伝子がどこまで人間の運命を支配しているかという問題である。
 1991年にアメリカとソビエト連邦は戦略核弾頭を今後7年間に6000発にまで削減する「第1次戦略兵器削減条約(START I)」に調印した。だが、それ以降も世界には26000発以上の核弾頭が眠っており、ソ連崩壊後のロシアから無数の核兵器が流出しているという話もある。「抑止力理論」が崩壊する現代的な危機感。『メタルギア ソリッド』では、大胆にもそのテーマを扱っているのだ。
 ゲーム中に登場する核搭載歩行戦車メタルギア・レックスは、「核の抑止力」を無効化する架空兵器だ。SDI構想(スター・ウォーズ計画)で開発されたレールガン(磁力銃)で核弾頭を発射する機構をもち、レーダーを無力化する。これらのアイデアは既存技術の組み合わせから生まれている。レールガンを運用するコストの問題さえクリアすれば、現実に存在しえるだろう。
 もうひとつのテーマ、遺伝子の問題はさらにディープだ。『メタルギア ソリッド』は、最強の兵士ビッグボスの遺伝子を受け継いだ、ふたりの兵士リキッド・スネークとソリッド・スネークの物語だ。70年代アメリカ軍の暗部といわれる、彼らがどう生きるのか。それが本作のテーマなのである。
 人間の遺伝子は2000年代に各国の研究者により、ほぼ解読された。どの因子が人間の性格を決定づけるかは解明されていないが、遺伝子を細胞核に埋め込むことでクローン動物を産みだすことは実現している。
 クローン技術の落とし子であるリキッドは、同じ出生を持つソリッドに対し、深いコンプレックスを抱いている。彼は自分が劣勢遺伝子の寄せ集めであり、「能力の低い遺伝子の継承者」であると『誤解』をしているのである。
 本来、遺伝子というのは未来の予測ではなくて、ある種計画でしかない。自分の遺伝子のプログラムがあっても、自分の意思や生き方で変えられるはず。それが『メタルギア ソリッド』の伝えたい事だった。――小島秀夫監督は本作の重要なテーマとしてこのようなコメントを当時のインタビューで答えている。
 ミクロとマクロ、ポスト冷戦の問題の中で、どういう生き方を選択するか。それを問いかける、ゲームの皮をかぶった問題作。それが本作の正体なのである。