MGS2 パッケージ
METAL GEAR
[ 1987.7.13 ] MSX2
METAL GEAR
[ 2004.8.18 ] 携帯ゲーム
METAL GEAR 20th ANNIVERSARY METAL GEAR SOLID COLLECTION
[ 2007.7.26 ] PlayStation2
METAL GEAR
[ 2009.12.8 ] Wii バーチャルコンソール
METAL GEAR SOLID HD EDITION(MGS3内収録「MSX2復刻版」)
[ 2011.11.23 ] PlayStation3 / Xbox360

全ての物語には始まりがある

スクリーンショット

 南アフリカ奥地、ガルツバーグの北200キロ。1980年代後半に、英雄かつ狂人とうたわれたひとりの傭兵によって武装要塞国OUTER HEAVENが作られた。彼は世界中の優秀な傭兵を集め、戦争を糧とし、兵士や軍備を世界の紛争地域へと「輸出」を開始する。危険すぎる戦闘国家の出現。大国はこの存在を否定できず、暗黙裡に認めてきた。
 あるときNATO(北大西洋条約機構)は、戦争史を塗りかえるおそるべき殺戮兵器がOUTER HEAVENで開発されているという情報を入手する。軍部はハイテク不正規特殊部隊FOX HOUNDに出動を命令。コードネーム:グレイ・フォックスを彼の地へ潜入させて、その兵器の破壊/妨害活動を命じた。しかし数日後、彼は「メタルギア……」という不可解な連絡を残して、消息を絶ってしまう。
 事態を重く見た上層部はFOX HOUNDに再び出動を命令、新人の隊員ソリッド・スネークにすべてを託した。司令官ビッグボスの指揮のもと、スネークは無線機だけを片手に単身OUTER HEAVENに潜入する。「こちらビッグボス……。OPERATION INTRUDE N313。敵、要塞アウターへブンに潜入、最終兵器メタルギアを破壊せよ!」。耳元で司令官ビッグボスの声が響く……。
 OUTER HEAVENに単独潜入したスネークは武器や弾丸などをすべて現地で調達。レジスタンスのリーダーであるシュナイダー、そのメンバーであるジェニファーやダイアンたちと接触し、隠された牢屋に囚われの身になっていたグレイ・フォックスを救出する。そしてグレイ・フォックスから、核搭載重歩行戦車メタルギアの存在を聞くのだった。メタルギアの開発者は東側の科学者ペトロヴィッチ・マッドナー博士。彼は娘のエレンとともにOUTER HEAVEN内に拉致、監禁されているという。スネークはそのまま作戦を続行、2人に接触してメタルギアの破壊方法を探すことになる。
メタルギアの秘密に迫るにつれ、スネークの行動の裏をかくトラップが待ち構えるようになる。まるで彼の行動が敵側に漏れているかのように、落とし穴が設置され、兵士たちが待ち受ける。独房の番人シュート・ガンナー(ショットメーカー)、機関銃を操るマシンガンキッド、火炎放射機を背負ったファイヤー・トルーパー、ジェットエンジンを装着したフライングアーミー、武装ヘリコプターハインドD……。彼らと戦闘したスネークは地下100階に格納されているメタルギアのもとに到達する。そしてメタルギアの弱点にC4爆弾をしかけるのだった。
ミッションが完了したと思われたとき、目の前に現れたのは驚くべき人物だった。
「お前はやりすぎた。やりすぎたのだ」
 そう男はいうと、ソリッド・スネークをまもなく爆破するOUTER HEAVENの道連れにしようとする。地下100階で一騎討ちがはじまった。思想も政治も関与しない男と男のぶつかり合い。崩壊していくOUTER HEAVENに残されたものは……?


MSX2という時代

 初代『メタルギア』はMSX2というパソコン向けのゲームとして開発された。このMSX2とは1985年代にマイクロソフトとアスキーが提唱したパソコンの共通規格のひとつ。当時のパソコンは機種ごとに独自の仕様を持っており、それぞれのパソコン専用のプログラムを組み、ソフトウェアを作らねばならなかった。その群雄割拠の混乱期に互換性を提唱した共通規格こそがMSXだったのである。なお、MSX2とは1983年に発表された共通規格MSXのバージョンアップ版であり、グラフィック描画機能が強化されていた(VRAM16キロバイト→最低64キロバイト、色数16色→256色など)。しかし、すべてのパソコンの機能の最大公約数を選んだために、ゲームを動かすには制約の多いスペック(機能)となっていたのも事実である。
 『メタルギア』の企画においても、このスペック不足の制約が足かせとなった。当初の企画では「戦争ゲーム」を作るという目的があったのだが、MSX2では、たくさんの敵兵士を一画面に表示することができない。また、銃弾も一画面に4発以上表示できなかった。そこで小島秀夫監督は、映画『大脱走』のような「敵から逃走するゲーム」を企画した。「敵と戦わずして逃げる」というルールならば、敵兵が一度にたくさん表示されなくても、戦争の緊張感を表現できる。技術の制約が敵基地へ潜入するゲーム『メタルギア』を生んだのである。
 荒いドット(点の集合)で描かれた『メタルギア』のキャラクターは、今見るととても記号的に見える。だが、すべてを具象的に描かずに、無線による会話シーンなどを用いて大きな流れで物語を見せていく「見せない演出技法」が、『メタルギア』の独特なテイストを作りあげた。プレイヤーの想像力を刺激し、世界を膨らませる。MSX2版から始まったから、今の『メタルギア』の基本形がしっかり築かれたのだ。

冷戦下の戦争

 『メタルギア』は冷戦下の国際状況を反映したゲームだ。ストーリー、登場する兵器、そのすべてが冷戦下の、いびつな世界を反映している。
 1990年代後半まで長く続いた冷戦時代。それは第二次世界大戦(1939年~1945年)以後に資本主義陣営と共産主義(社会主義)陣営の対立によって始まった。アメリカ合衆国を中心とした資本主義陣営は西側と呼ばれ、1949年「北大西洋条約機構(NATO)」を結成。対する、ソビエト連邦を中心とした共産主義(社会主義)の陣営は、東欧を中心地としていたことから東側と呼ばれ、1955年「ワルシャワ条約機構」を結成した。両陣営は核兵器開発と宇宙開発で熾烈な競争をおこない、国境には「鉄のカーテン」が引かれているといわれていた。直接衝突する「熱い戦争」に対して、お互いが相手を威嚇することから「冷たい戦争(Cold War)」と呼ばれたのだ。
 冷戦の開発競争は、急激な兵器技術の進歩を呼んだ。たとえば、レーダー波を反射・吸収するように設計されたB-2爆撃機やF-117のようなステルス兵器や衛星を使って核兵器を打ち落とす、SDI構想(スター・ウォーズ構想)は冷戦下の情報戦にふさわしい発想である。まさに「敵に見つからないように潜入、目標を破壊する」『メタルギア』的な兵器だ。欧米では『メタルギア』シリーズのことを「ステルスゲーム」と呼ぶが、まさしく本シリーズの本質を言い当てた呼称といえるだろう。
 冷戦において、どちらの陣営にも属さない発展途上国は「第三世界」と呼ばれ、どの陣営に属するかを問われた。本作『メタルギア』はこの冷戦の時代の「第三世界」での目に見えない代理戦争が戦場となっている。ゲーム中にソ連(ロシア)の武装ヘリである「ハインドD(Mi-24)」やアメリカの主力戦車にそっくりなタンクが敵兵器(ボス)として登場するのは、その微妙な力関係の表れだ。
 冷戦が終結するのは1991年以降。ベルリンの壁が壊され、ソ連が解散し、ロシアが発足。東西の友好ムードが高まり始める。しかし、大国の利益のために振り回された「第三世界」の国々の悲劇はこれからだった。すでに、国際競争力を剥ぎ取られていた「第三世界」の人々は、冷戦時の屈辱を理由に武器を取り、数多くのテロリストを排出し始める。このポスト冷戦の状況は『メタルギア』の続編の『メタルギア ソリッド』で描写されている。