「アヌビス」レジンキット原型師:浅井真紀氏インタビュー 第2回




-実にゲームモデルを再現することに徹して今回の「アヌビス」レジンキットを完成させた浅井氏。
今回アヌビスを完成させたことで浅井氏は新川の「オービタルフレーム」のデザインが掴めてきたと言う。
創造主・新川洋司と原型師・浅井真紀が語る、オービタルフレームの真実とは…




新川: ボーっと見ている人と、実際手を動かして作業した人とでは見方が全然違うなっていう気がしますね。

浅井: 今回、立体化したアヌビスっていうのは、オービタルフレームのピーキーな方向性と、ナチュラルな方向性があったとしたら、僕がオービタルフレームを深く知らない所から始まっているぶん、やっぱり…ピーキーな方にはふっていないと思うんですよね。

新川: そうですね。

浅井: 受け入れられる範囲は今回の方が広いんだろうなって思うんですけど、次に造るんだったらもっと振ってみたいなぁってのはありますね。

村田: それはどっちですか?

浅井: 勿論ピーキーな方に。
今回で方向が見えてきたんで、その方向の純度を高めてみたいですね。逆にそうでないオービタルフレームだったら、誰でも出来てしまうんで…
今回は、やらせてもらえるならって言う意地の部分で仕事を受けちゃった所っていうのが正直あるんですけど、今後もしオービタルフレームであるとか、新川さんのデザインに手を付ける機会があれば、それなりの意味ってやっぱり欲しいなと思うんですね。
そう考えた時に、ただ完成度を上げる作業だけであれば、別に他の人でも出来ると思うんで、2作目であるという意義を見出したいなぁと思いますね。

村田: 次、他に造りたいオービタルフレームってありますか?

浅井: 実はアヌビスをもう一回やりたいなって思うんですよ。例えば、デザイン画とは違う形になっちゃっているんだけど、そのベクトルの行く末はここにあるんじゃないか?っていう形をやってみたいなって思ったりしますね。 それこそ本当に筆みたいなタッチでやっちゃってもいいかなぁと思うんですね。ノウマンのレリーフとか、それ結構汚めに仕上げてあるんですけど、もっと汚くやっちゃうのもアリかな、とか思うんですね…指紋残ってんじゃんみたいな。それは極端なアレですけど。







新川: なかなかそれをユーザーさんには受け入れてもらえないけどね。

浅井: ええ。市場に流れる商品にはならないんですけど、やってみたいとは思いますね。 それだとか、例えば監修の時お話を伺った際に、逆脚のデザインだからポリゴンのアクションが付け辛いっていう話をされていたじゃないですか? 犬の前足だから逆脚なんだと思うんですけど…ただ犬の前足だと膝に見える部分って人間で言う足首のところにあたりますから、本来の犬の膝関節がどうしても欲しくって。今 回は太腿を湾曲させて(※左写真、赤矢印)、フロントを大きめに張り出すことで膝関節に見えるようにしてみたんですね。

新川: なるほどね。

浅井: でも終わった後に、フッと太腿の下の所に関節が欲しかったなって思い始めたんです。ココ(※左写真、黒矢印)に関節を造って、バキッと正方向に曲がるようにして、太腿自体はもっと長く、膝下は短くすると、設定の絵と見た目の構造は変わらない逆脚なんだけども、アクションはもっととれるっていうのも可能だったんじゃないかなと、ホンのここ2、3日で不意に思い始めて…。これは例の一つなんですけど。
今回の仕事を始める前は…正直、新川さんの事がわからないっていうのがあったんですけど…今だと「これだとどうです?」っていう話が出来るなと思うんですね。その上で、この先煮詰めていったらどうなりますかね?っていう話が出来たらと思うんです。そうなると今見えていないものとか、どうなるか判らない所が覗けるかなっていう気がして。そういった意味でのピーキーさって、やってみないと見えてこないゆえのピーキーな部分なんで、もう少し先を覗きてぇ~っていうところがありますね。

村田: ふくらんじゃってますね。

浅井: 多分アレだと思うんですよ…アヌビス以外をやると2・3コマ戻っちゃう事になるんですよ。

村田: そうっすね。

浅井: 今アヌビスをやるともうチョット、ピーキーになるだろうなと。さらにもう一回アヌビスをやると、さらにピーキーになるんじゃないかと。(笑)



村田: あんなに一心同体だった小林君(「アヌビス」モデル担当スタッフ)も、それでも各メカごとに毎回毎回何らかの試練がありましたよね。やっぱり、新しく作る人と小林君とでモデリング違いましたよね?

新川: うん…そうね。
まぁ、彼が保菌者となって(笑)…いろいろバラ撒いてくれたとは思うんだけど。

村田: 浅井さんは仕事上で同じキャラクターを続けて造る事ってあります?

浅井: あまり無いですね。
ましてや…可動のロボットになってくると市場が大体形成されてるんで、さっきいったようなやり方って言うのは、仮にその立体を造って僕的に純度が高まったなぁと思ってもユーザーさんには受け入れられない可能性はあるかもしれません。海洋堂の山口さん(山口勝久氏)が造ったジェフティっていうのは、彼なりの解釈が入っていながらも、広く受け入れられもする造形だなぁと思うんですね。あれはみんながカッコ良いと思うフォーマットをきっちり踏まえて、その上で解釈をかけてる。でも僕の解釈を進めてしまうと、もっと偏ってしまう気がするんです。
だからプロとして考えると、その(自分が)やりたいなぁと思っている作業は、やるべきではないのかもとは思うんです。どんどんユーザーを置いてきぼりにしてしまうんで。市場に対応して受けたいっていう部分はあるんです、だからそれはやるべきでは無いのかもと思いつつ、ココまで来たのにゴールは目指さないの?っていう気持ち悪さもありつつ…

村田: よく言うところの『商品か作品か』みたいなことですよね?

浅井: そうですね…さっき言った脚の関節であるとか、そういった部分を造るとなると、追随して腰も変わっちゃうし、胴体も変わっちゃうし、胸も変わっちゃうし、全部変わっちゃうと思うんですよ。それこそヒレとか耳とか爪とか、わりと機械的な部品だけを流用みたいな感じになってっちゃって。行き着くところ、荒い粘土造形でいいやって思うタイプですから僕は。

新川: 僕も『Z.O.E』の時と『アヌビス』の時とで、「ジェフティ」に対する考え方が随分変わってて…描く絵が毎回違うって怒られたんだけど(笑)。
まぁアヌビス…要するに『Z.O.E』を二回やって、『アヌビス』でなんとなく答えが見えてきたかなぁ…ディティールとか関節の処理とかに関して…確かにアヌビスをもう一回造るぞというのは解かるような気がします。









村田: 前作の『Z.O.E』の時にも、アヌビスいたじゃないですか?でも結構、出番的にも少ないし… 今回「アヌビス」で改めてジックリ作って、今回がアヌビスは一回目みたいな気持ちはありませんか?

新川: そんなことは無いですよ!(笑)一回目の時に描ききれなかった部分っていうのは、細かいディティールですよね。「Z.O.E」では僕の中ではフォルムは決まってて、小林君はまだフォルムが出来て無くって、僕の中ではディティールが出来ていなくって…で、『2』(アヌビス)で彼がフォルムを作ってくれたから、それに僕がディティールを描き加えていったみたいな感じ。

浅井: 僕が次(造型を)やるとしたら、新しく目指す事は…フォルムと、それともう1つはディティールなんですけども、スジ彫りとか、段差とかそういう意味合いの事ではなくて、その位置にその形の部品が彫られている事の意味みたいなものをキッチリやりたいなぁとは思うんですね。 さっき言っていた、関節がココにあるとしてって考えると、同じスジ彫り一本でも入る角度とか位置とか全然変わってきちゃうんだと思うんですよ。動く前提だとして考えると。
これも一例なんですけど、今回可動にしてみて、股間の関節だけだとポーズに限界があるなぁって思ったんです。じゃあ仮に太腿が真ん中から縦に割れて、噛み込むように奥に入り込むとしたら、デザインを変えずに脚をより内側に向けられるんじゃないか、じゃあココのディティールは、もっとこうなっていくんじゃない?って。そんな風にして各部分の見方が変わってきてしまうと思うんです。作業としては造るっていう作業より…あの…デザインを探求する作業だと思うんですよ。

新川: 関節なんかは、最初…『Z.O.E』でやってた、何でこういう関節になったか、わき腹の蛇腹状みたいなのとか…ってタダの蛇腹ではないんだけども。一番最初にテストバージョンで作っていたのが本当にロボットだったんですよ、さっき(インタビュー前回掲載分参照)言っていたブロックの突っ込みの関節でロボットだったんだけど、で…もっとアニメっぽい処理をさせたいっていう前提があって、それは本当にブロックブロックの塊が関節で動くんじゃなくて…アニメって関節が捻れるじゃないですか、グニャって…それをやりたかったんですよ。

浅井: はいはい!

新川: それが一番自然に見える形っていうことで、こういう蛇腹状になった…まぁ全然そういう蛇腹的な関節、曲がっちゃっていいよっていう…お腹の部分とか、硬いのか軟らかいのか分かんない。襟なんかもゲーム中になるとグニャってなっても…

浅井: 上半身と両腕…(ゲームのポリゴン)モデル、ワンパーツでしたもんね。

新川: (笑)

浅井: ポリゴンを見て、愕然としました(笑)



新川: あれだったら別に不自然じゃない。それを逆に設定の方に持ってきちゃったっていう…どういう素材か解かる訳が無いんですよね、超未来のこういう超兵器なんですから…理由は要らないんですよ。で、僕らがNASAの宇宙船を見て、中はこうなっているって言われても解かんないのと一緒で、もっと解からない訳だから…その硬いパーツがグニャって曲がってもいいじゃないかっていう考えですね。

浅井: 僕自身が普段メカを造ってないからなんでしょうけど、このディティールならこう動くものなんだっていうメカ的なこだわりっていうのが、たぶん僕の中に無かったと思うんですね。

新川: そっちのほうが良かったでしょうね。

浅井: で、頭の中にあったのは、もっとメカとしてこうだ…じゃなくて、犬だったらこうじゃない?とか、犬の足で演技させるんだったらこの関節が欲しいなあ、とかそういう感じになってくるんです。アヌビスのディティールが全くのツルッペタでフォルムだけのものであったとしても、たぶん…一回造った上での二回目は同じ事を言っていたと思いますね。
犬のシルエットなんだったらここ(前出の関節部分)をこういう風に動かしたいって言っていたでしょうし…。次回作でまるっきりディティールが変わっている、フォルムだけアヌビスで、表面がまるっきり違うとしても、それを造るとしたら、やっぱり脚の関節から入る気がしますね。犬を…もう、犬を…!って(笑)

新川: 確かにそういう意味では記号かもしれないですね。ゲームでも1関節しかなかったけど、そういう意味で踏ん張りが利かないっていう。

浅井: 脚を前側にもっていけないのがポーズ付けてて辛かったんですよ、人型としては。でも犬であるからこその逆脚だから、それは絶対に外せない。犬の脚だと考えると膝にあたる所は足首になるし、そうすると太腿は脛になるし、かと言って太腿に一関節増やすのは飛ばしすぎだろうし・・・考えこんで気持ち悪くなってました。(笑)

村田: 新川さん的には、この(アヌビスの)逆脚はどのように解釈されているんですか?

新川: う~ん。なんで逆脚にしたんだっけかなぁ…

村田: (犬の姿をしたエジプト神としての)アヌビスだからですよね?

浅井: それは学生時代まで遡っての話ですよね。











新川: その時からそうだったような気がしますね。単純にアヌビスは犬だから逆(脚)だろうってあったかもしれないし。絵的に止め絵で描くとチョット逆に反っているほうが、ピシッと真っ直ぐ立った時に決まるんですね。
それでまぁ、反り気味に描いちゃって…じゃあ逆?みたいな(笑)…その位のノリだったんですけど。

浅井: いま、僕の心の中では「はぁ~(溜息)」っていう(笑)

一同: (爆)

新川: そんなに深くはやっぱり考えてないんですね、最初は。絵的な部分から入っちゃうんで…このジェフティだって、逆っぽく反れているじゃないですか。だから、それ的なノリかなぁ…こっちのモデルだと普通に曲げていて、ちょっとあまいシルエット…止め絵でみると。

浅井: そのノリ的なところも吸収できる立体をできたらなあとは思うんですけどね。
造っていて、ディティールを表面に彫ってしまうと、修正とかはなかなか利かないじゃないですか。じゃあもっと脚を太くしましょうってなると、それまで造ってきた部分が全部無しになってしまう。それがあるんで一番最初に…その…基本的な形を造る時は、かなりビクビクしながら造っていた所があるんですよ。次回やるんだったらもっとグラマラスと言うか、流れに沿ったディフォルメをガンガン入れちゃうと思うんですが、中々それが思い切れないですね。
今回は特に可動が前提だったんで…やっぱり動かす事を考えると派手に形状が歪んだモノって、おっかないんですね。経験不足もあって、それをやるとまったく動かなくなるかも…っていう恐怖感がありましたし、とりあえず動かすという事ではなくて今回は最初から「最低でも腕組みは何としてもやりたい」とか、そういう演技をさせたい前提があったんで、その為に無難にまとまるようにってやっている所はありました。それが後半になって段々「アヌビスってこうなんだ」って思い始めるにしたがって、(ノリが)上昇曲線で暴走って感じだったんで…。

村田: (製作段階の)後半のほうが浅井さん、活き活きしてたもん。(笑)

浅井: 実は、最初の方にですね、新川さんにメールをお送りした時に、とりあえず削ってバランスを見るだけの段階のモノをお送りしたんですね。正直なところ、場つなぎのごまかしで。表面は何にも無い、まだ全然、煮詰められていないものだったんですが、一応全身は揃っていたんで…。それで…あの…新川さんから「あぁ、もうココま進んでるんですね。」っていうレスを頂きまして。こっちとしては「あっ、進んでる思い込ませてしまった!でも…コレ…キャンバスだし…(汗)ヤベェ…ココまできて、いや実はあと二ヶ月かかります…なんて話、できねぇ(泣)」って。
今だからできる話としてありますが。(笑)



-第3回に続く…



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