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雪斎先生と小太郎の部屋
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ふたり軍師
――これは秀吉軍に「両兵衛あり」と言われる少し前のお話
豊臣秀吉
おーい、はんべー
竹中半兵衛
お呼びでしょうか、秀吉さま
豊臣秀吉
えっとね、はんべーにイイ話を持ってきてあげたんだよ
竹中半兵衛
はっ…ありがとうございます
豊臣秀吉
あいかわらずマジメだねぇ。あたしにはテキトーでイイって言ってるのに
竹中半兵衛
いえ、私は秀吉さまにお仕えする身…君臣の礼はわきまえなければなりません
豊臣秀吉
えっと…ドユコト?
竹中半兵衛
秀吉さまはエライ人で、半兵衛めは下っ端ということです
豊臣秀吉
まあ、はんべーがそれでイイなら、あたしゃ何も言わないよ
竹中半兵衛
恐れ入ります…それで、良い話とはなんでしょう?
豊臣秀吉
そそ、新しい軍師を連れてきてあげたんだよ――おーい、かんべー
シュルルルル…ドーン!
竹中半兵衛
ゲホッゲホッ…これは、いったい?
豊臣秀吉
ゴホゴホ、こりゃあ煙幕だね…
黒田官兵衛
いいえ、これは冥闇に漂う瘴気の霧…神魔界の扉が開いたが故に起きた事象…
竹中半兵衛
あ、あなたは…?
黒田官兵衛
フフフ…冥闇の邪皇神の血を受け継ぐ神魔界のプリンセス!
黒田官兵衛
未曾有のだい――ごほっげへっがはっ!
豊臣秀吉
ゲヘゲヘ…こりゃあ換気が必要だねえ――ほいっと!
ガラガラガラ…
黒田官兵衛
あー…窒息するかと思ったわ
竹中半兵衛
えっと…もしかしなくても、この方が新しい軍師でしょうか?
豊臣秀吉
そそ、くろだかんべーだよ
黒田官兵衛
いいえ、冥闇の邪皇神の血を受け継ぐ神魔界のプリンセス! 未曾有の大天才・黒田官兵衛サマよ!
竹中半兵衛
はぁ…?
豊臣秀吉
…よくわかんないけど、そーゆー設定らしいよ
黒田官兵衛
せ、設定ではないわ! 無礼なことを言うと…魂をブチ抜くわよ
豊臣秀吉
うひゃあ…そいつは、おっかないねぇ
竹中半兵衛
あ、新しい軍師ということは…私はお役御免ということでしょうか…?
豊臣秀吉
いやいや、はんべーだけに苦労させるのも悪いからねぇ…言うなりゃ助っ人だよ
黒田官兵衛
誰が助っ人よ…軍師なら、この未曾有の大天才・黒田官兵衛サマ一人で十分だわ
竹中半兵衛
・・・・・・・・
× × ×
――数日後
豊臣秀吉
おーい、はんべー
竹中半兵衛
はい、ただいま!
豊臣秀吉
あ、違った…かんべーのほうだ
黒田官兵衛
ちょっと秀吉! 神魔界のプリンセスのわたしと、一般人の半兵衛を間違わないでほしいわ
豊臣秀吉
ゴメンゴメン…名前が似てるから、ついゴッチャになっちゃうんだよねぇ
豊臣秀吉
もう、いっそ…「べーさん」って、ひとまとめにしちゃおうか?
竹中半兵衛
それはちょっと…
黒田官兵衛
そんなことをしたら、魂をブチ抜くわよ
豊臣秀吉
まあ、それはさておき…買い物を頼まれてほしいんだよ
黒田官兵衛
その程度のことは、半兵衛に頼んでくれないかしら?
竹中半兵衛
秀吉さま…まだ官兵衛どのは、この辺りの地理に不案内だと思います。代わりに私が参りましょう
黒田官兵衛
ふ、不案内だなんて…未曾有の大天才のわたしを見くびってもらっては困るわ
竹中半兵衛
いえ、そういうつもりでは…
豊臣秀吉
じゃあ、あれだね…仲良く、べーさんたちに行ってもらおうかねぇ
竹中半兵衛
…えっ?
黒田官兵衛
えっ?
× × ×
ガヤガヤガヤ…
黒田官兵衛
お米の買い出しなんて…軍師のすることなのかしら?
黒田官兵衛
それに…この行列は何なのよ? 百や二百はいるんじゃない?
竹中半兵衛
ここのお店、大安売りの時はいつもこうなんです
黒田官兵衛
ふうん…ところで、あそこの家族連れは、ヨボヨボの老人まで駆り出して何をするつもりなの?
竹中半兵衛
目玉のお米は、一人一俵までなんです。だから、ああやって頭数を揃えているんですよ
黒田官兵衛
そうなると、わたしたちも負けていられないわね
ガリガリガリガリ…
竹中半兵衛
あら、ろう石なんて懐かしい…官兵衛どのは絵がお上手なのですね
黒田官兵衛
ふふん、ただの絵じゃないわ…闇の眷属を呼び出す魔法陣よ!
黒田官兵衛
深淵に棲まう闇の眷属よ、我が声を聞け! 汝、我が手足となるべく――えっと…
ゴソゴソ…パラパラパラ…
竹中半兵衛
…「黒魔術入門」ですか?
黒田官兵衛
今、話しかけないで! 召喚術の途中なんだから…って、よく見えないわね…
ゴソゴソ…スチャ!
黒田官兵衛
えっと…汝、我が手足となるべく、現世に顕現せよ! ダテ・エト・ダビツゥール・ウォービス!
竹中半兵衛
官兵衛どのって、目が悪かったんですね
スチャ…ゴソゴソ
黒田官兵衛
そ、そんなことないわ! 今日は、たまたま調子が悪いだけよ
竹中半兵衛
それで…この後、何が起こるんでしょうか?
黒田官兵衛
・・・・・・・・
竹中半兵衛
・・・・・・・・
黒田官兵衛
くっ…ここは力場が乱れているようね。わたしの邪皇神の力が、思うように発動できない…
竹中半兵衛
あ、そろそろ開店ですよ
黒田官兵衛
ちょっとぐらい、リアクションしなさいよ!
店員
えー、限定特売コシヒカリをお求めのお客様は、こちらに並んでください
ドドドドドド…
店員
走らないでください! お一人様一俵まで――わぶっ!
黒田官兵衛
な、何なのこれは!? ラグビーの試合? それとも暴動?
竹中半兵衛
行儀良く並んでいるのは入口までです…店の中に入った瞬間から、誰もが野獣に豹変します
竹中半兵衛
それに大人気のお米は数に限りがあるので、熾烈な奪い合いになってしまうのです
黒田官兵衛
きゃっ! 足…今誰か、わたしの足を踏んだわ!
竹中半兵衛
足なんて可愛いほうです…あの激戦区の中では、肋骨の二、三本は覚悟する必要がありますよ
黒田官兵衛
ま、まさか…あの修羅場へ飛び込めって言うんじゃないでしょうね?
竹中半兵衛
官兵衛どの、運動神経は良いほうですか?
黒田官兵衛
そうね…良くなくはないと言えなくはないかもしれないわね
竹中半兵衛
…要するに自信ないのですね
黒田官兵衛
そういう、あなたはどうなのよ?
竹中半兵衛
私も、体が弱いので、こういった力仕事には向いていません
黒田官兵衛
じゃあ、どうするのよ!
竹中半兵衛
あの殺人的スクラムにも、刹那の間隙が生まれます…その機を逃さず奪取するしかありません
黒田官兵衛
ふうん…それよりあなた、顔色悪いように見えるんだけど、大丈夫なの?
竹中半兵衛
ええ…決して良くはありませんが、この修羅場を切り抜けるぐらいなら――
…ドサッ!
黒田官兵衛
半兵衛!? ねえ、ちょっと…倒れるとかありえなくない?
黒田官兵衛
ちょっと店員さん! 急病人よ! 担架持ってきて――
× × ×
――数刻後、半兵衛の居室
竹中半兵衛
…あれ? 私――
豊臣秀吉
半兵衛、気分はどうだい? 辛いところはないかい?
ガバッ!
豊臣秀吉
ダメダメ、いきなり跳ね起きちゃ体に悪いよ
竹中半兵衛
私…お店で倒れちゃったんですか?
豊臣秀吉
うん、貧血だってさ。昨日も遅くまで仕事してたみたいだし、無理が祟ったんじゃないかねぇ
竹中半兵衛
申し訳ありません…
豊臣秀吉
いやいや、謝らないでよ。買い物なんかに行かせた、あたしが悪いんだからさ
竹中半兵衛
じゃあ、官兵衛どのを先に指名したのは…?
豊臣秀吉
うん、まあ…でも、結局行かせちゃったから意味ないんだけどね
竹中半兵衛
秀吉さまのお心遣いに気づかず…お恥ずかしい限りです
豊臣秀吉
そんなことないよ。はんべーは頑張り屋さんだからねぇ
豊臣秀吉
かんべーを仲間にしたのも、はんべーの負担が軽くなればと思ったんだけどさ
豊臣秀吉
ほら、はんべーは何でも自分でやろうとするから
竹中半兵衛
そうですよね…最初にそう言われたはずなのに、独りで勝手にスネてました…
竹中半兵衛
私だけじゃ、秀吉さまの軍師は務まらないのかなって…
豊臣秀吉
あはは、バカだなぁ…はんべーは。そんなことあるわけないのに
竹中半兵衛
はい、大馬鹿者です…ふふっ
竹中半兵衛
あっ…そういえばお米は?
豊臣秀吉
ああ、かんべーがちゃんと二人分買って来てくれたよ。うまいことやったみたいだねぇ
竹中半兵衛
そうですか…さすがですね
豊臣秀吉
でもさ、店に文句言って、ちゃっかりお米は届けさせたみたいだけど…
豊臣秀吉
あんな小さな体で、はんべーを背負って帰って来たのにはビックリしたよ
竹中半兵衛
官兵衛どのが私を…?
豊臣秀吉
そそ、筋肉痛になったとかで、伏せってるみたいだから、後で見舞いに行ってあげなよ
× × ×
――後刻、官兵衛の居室前
トントン…
竹中半兵衛
半兵衛です。入ってもよろしいでしょうか?
黒田官兵衛
ちょ、ちょっと待って――アイタタタ…
竹中半兵衛
官兵衛どの?
黒田官兵衛
はぁ…いいわよ、かなり散らかってるけど
竹中半兵衛
失礼します…
ススス…トン(ふすまの音)
竹中半兵衛
…足の踏み場もありませんね。これ全部、官兵衛どのの蔵書ですか?
黒田官兵衛
そうよ…だから、散らかってるって言ったのに
竹中半兵衛
お部屋では眼鏡なんですね
黒田官兵衛
本を読む時はね…それより何の用かしら?
竹中半兵衛
お店では、とんだ失態を犯してしまい…申し訳ありませんでした
竹中半兵衛
それと…私を運んでくださり、ありがとうございます
黒田官兵衛
べ、別に…困った時は助け合いなんだから…気にしなくていいわ
黒田官兵衛
それより、もう大丈夫みたいね?
竹中半兵衛
はい、お陰さまで…官兵衛どのは辛そうですね
黒田官兵衛
あなた、細い体してるから油断していたわ…人間って重いのね…
竹中半兵衛
何故、背負って…? お米はお店の人に頼んだって聞きましたけど
黒田官兵衛
…年頃の女の子を、赤の他人に任せられるわけないわ。何かあったら、どうするのよ
竹中半兵衛
官兵衛どのは、お優しいのですね…
黒田官兵衛
べ、別に………ふつうよ
竹中半兵衛
…もしかしなくても、照れてます?
黒田官兵衛
ま、まさか…この未曾有の大天才・黒田官兵衛サマが照れるとか…わけがわからないわ!
竹中半兵衛
ふふっ…
黒田官兵衛
…何よ?
竹中半兵衛
官兵衛どののこと、少し誤解していました
竹中半兵衛
もっと自己中心的で、尊大な人だと思っていたんです…
黒田官兵衛
フフフ…冥闇の邪皇神の血を受け継ぐ神魔界のプリンセスなのだから、当然だわ
竹中半兵衛
結局、最初から色眼鏡で見ていたんですよね…新しい軍師って聞いた時から…
黒田官兵衛
ふうん…最初に会った時、複雑な顔していたのは…そういうことだったのね
竹中半兵衛
…恥ずかしい話ですが……ヤキモチです
黒田官兵衛
バッカじゃないの? 竹中半兵衛ともあろう者が、そんな卑屈でどうするのよ?
竹中半兵衛
えっ…?
黒田官兵衛
秀吉のそばに半兵衛ありって、世間の常識みたいに言われているんだから、自信を持ちなさいよ
黒田官兵衛
まあ…未曾有の大天才である、このわたし相手じゃ無理ないけどね
竹中半兵衛
官兵衛どの…
黒田官兵衛
それよりも、自分で何もかも背負い込もうとするクセ、何とかしなさいよ
黒田官兵衛
軍師っていうのは、周りを使ってこその存在…指令塔なんだからね
黒田官兵衛
ま、そのへんのノウハウは、未曾有の大天才である、この黒田かんべえ――アイタタタタ!
竹中半兵衛
だ、大丈夫ですか!?
黒田官兵衛
言ったでしょ、筋肉痛だって…寝ていれば治るわよ
竹中半兵衛
官兵衛どの、よろしければマッサージをさせてください
黒田官兵衛
い、いらないわよ…凝ってるんじゃなくて、痛いんだから…
竹中半兵衛
まあまあ、かなり効くって秀吉さまのお墨付きですよ
黒田官兵衛
……じゃあ、優しくなら
竹中半兵衛
はい♪
黒田官兵衛
もし痛くしたら、あなたの魂をブチ抜く――イタタタタ!
――やがて「秀吉軍に両兵衛あり」と言われる、竹中半兵衛と黒田官兵衛
――これはその第一歩
麻布 某
525円で食べられるランチを求めて、路地裏をひたすら彷徨っています。