回答監修:助産師 浅井貴子先生

出産・骨盤ベルト 基礎知識

リラキシンで骨盤の靭帯が緩むというが、具体的にはどの靭帯が緩むのでしょうか?

女性は妊娠すると、妊娠反応が+に出る頃、つまり妊娠4週頃から出産直後にかけて、胎盤の元となる組織=絨毛から大量のリラキシン(Relaxin)と名づけられたホルモンが分泌されます。
このホルモンにはお産の際に産道を広げるために骨盤の靭帯をゆるめる役目があります。
実際にゆるむ靭帯とは、主には恥骨結合(ちこつけつごう)を固定している靭帯と仙腸関節(せんちょうかんせつ)を固定している靭帯と考えられています。

恥骨結合、仙腸関節とは何ですか?

まず骨盤の基本構造ですが、骨盤は主には3つの骨でできています。

まず背骨の真下にあり、背骨の土台となっている「仙骨(せんこつ)」。ちょうどお尻の割れ目の上あたりにあります。
仙骨の下には尾骨がありますが、ここでは尾骨は省略します。
仙骨の両側にある大きな骨が「寛骨(かんこつ)」で寛骨は背中側から左右に広がり前側で結合しています。
仙骨をはさんで輪のような構造をしているので、この形のことを骨盤輪(こつばんりん)といいます。
胎児はこの骨盤輪をくぐって生まれてきます。
左右一対となっている「寛骨」は大きな骨なので、部位別にさらに3つの名称に分けて呼ばれることが多く、蝶の羽のように左右に大きく広がった部分を「腸骨(ちょうこつ)」、前側で結合するあたり「恥骨(ちこつ)」、座ったときにお尻をささえる2つの出っ張った骨を「坐骨(ざこつ)」と言います。
恥骨結合とは、左右から下りてきた寛骨(恥骨)が前側で結合している部分を言います。
通常左右の恥骨は靭帯によって固定されています。
仙腸関節とは骨盤内にある関節で、「仙骨」とその両側にある「腸骨(寛骨)」とをつなぐ関節です。
この関節は、筋肉とはつながっておらず、また多くの靭帯で強く固定されているため、ほとんど動かない不動関節と言われています。
リラキシンというホルモンの影響と、児頭が骨盤の中に入ってくる事によって、固定されていた恥骨結合と仙腸関節の靭帯がゆるむことにより、骨盤輪が広がり出産が可能になります。

妊娠すると恥骨結合が開くというが、どの程度開くのでしょうか?
ベルトを締めれば閉じるのですか?
無理に閉じてしまっても問題はないのですか?

恥骨結合の開きは個人差がありますが、大きく開く方で1~2センチと言われます。これは靭帯が伸びた状態なので痛みなど違和感をともないます。
靭帯が完全に離開してしまうと歩行困難となります。
恥骨結合が開かなければならないのは出産時ですから、それまでの間は開いておく必要はありません。
骨盤ベルトを使う目的はこの開きを抑え、骨盤輪を支持するためものです。

一般的にリラキシンによってゆるんだ靭帯が、元に戻るのは産後いつごろでしょうか?

リラキシンの分泌自体は、出産後2~3日で止まります。
リラキシンや出産によって伸びた靭帯が元に戻るまでは通常3ヶ月程度かかるといわれますが、高齢出産や産後の授乳であぐらをかく、足を組むなど不自然な姿勢をとり続けると半年以上たっても腰痛や仙腸関節痛などが出てきて、戻らない方もいらっしゃいます。
またリラキシンは生理の時にも分泌されますので、ゆるんだ靭帯を戻すためには産後の生理を遅らせることも有効です。
母乳育児をする事により、生理の再来を遅らせる事が出来るので、母乳をしっかり出すことも実は大事な事です。

一般的に産後とは、出産からどのくらいの期間を示すのでしょうか?

妊娠・分娩によって生じた子宮や全身の変化が、完全に妊娠前の状態に回復するまでの期間を産褥期(さんじょくき)と言います。
一般的には6~8週間を要すると言われています。
ちなみに働く女性の産後休業については労働基準法65条2項本文により、産後8週間を経過しない女性を、就業させることができないとされています。
ただ現在は出産の高年齢化により、産後のマイナートラブルは増えてきてますし、帝王切開になる人もいますので、個人差はありますが、本当に体調が回復するまでには3~6ヶ月ぐらいかかります。

ベルトをしなかった場合、産後におこる骨盤トラブルとはどのようなものですか?

出産によって伸びた靭帯が伸びたままになってしまうと、仙腸関節のゆるみ、恥骨結合のゆるみが残ってしまい、腰や恥骨への違和感・不快感が残ります。

ベルトを巻くと何故、恥骨や腰の違和感が緩和されるのでしょうか?

リラキシンにより骨盤の靭帯がゆるんだところに、自らの体と、大きくなってくる胎児を支えるという負担がかかるため、腰が重くなったり、だるくなったり、恥骨に不快感を感じることがあります。
そこで骨盤をベルトで固定してあげると、これらの症状が緩和されます。

産前に使う場合は、どのくらいの時期(月齢)から使い始めるのが良いのでしょうか?

特に決まった使用開始の時期(月齢)というものはありません。 妊娠後、恥骨や腰に違和感や不快感が出てきた時や、胎児が重く感じてきたら使い始めるのが良いでしょう。

産前は出産直前まで使っていても構いませんか?

臨月(※)に入る前までは構いません。
臨月に入ったら出産に備えるために、立っている状態で腰に強い違和感や不快感がある時以外は、なるべくはずすようにしましょう。
※臨月(りんげつ)とは在胎週数36週0日から39週6日の時期を示します。一般的には出産の予定月という意味で使われます。

何故、産前からの着用をすすめるのですか?
産後からではいけないのでしょうか?

産後からでの使用ではいけないというわけではありません。
骨盤(恥骨、腰、お尻)に重さやだるさなどの違和感・不快感を感じたら使い始めてください。
胎児の頭と骨盤の入り口とはほとんど同じ大きさなので、胎児は骨盤がゆるまないことには出てこれません。
ですから妊娠直後から、骨盤の関節をつないでいる靭帯がゆるみはじめ、出産準備が始まるのです。
現代女性は昔に比べて、足腰、骨盤周辺の筋肉、靭帯が弱くなっていると言われます。
そのような方が妊娠すると骨盤がゆるみ過ぎてしまい恥骨や腰に違和感が生じます。
ですから、そのような方には妊娠中からの使用をお勧めしているのです。
実際、多くの妊婦さんに着用をしてもらうと、お腹の重みが軽く感じる、歩きやすくなる、腰が軽くなるという言葉を皆さんがおっしゃられています。
勿論、骨盤に違和感がない方は、ベルトを使う必要はありません。

装着方法と使い方について

正しい位置につければ、胎児や母体に悪影響はないのでしょうか?
誤った位置につけると、どんな症状になり、どんな悪影響があるのでしょうか?
またこんな症状になったら、装着方法を誤っているというのがわかる指標はありますか?

胎児と母体と各々への影響について回答します。

<胎児への影響について>
胎児は骨盤(骨盤輪)の中で外部からの圧迫には守られているため、骨盤下方、つまりお腹の下側に巻いているのであれば胎児を圧迫することはなく悪影響はありません。
骨盤の上方から上側、つまりお腹の部分を締めてしまうと、胎児を圧迫することになるので、出産後の健康問題が生じる可能性がありますので絶対にこの部分には締めないようにしてください。
ただ、よほどきつく締めない限りは、流産や奇形が起こることはありません。
きつく締めれば妊婦さん自身が苦しくなります。ご自身が苦しくなるような使い方や、大事なお腹(胎児)を強く圧迫するような使い方はなさらないでください。

<母体への影響について>
恥骨よりも高い位置(「恥骨結合の上方」)には膀胱がありますので、締めすぎると違和感や尿意を感じるようになります。
またさらにその上の「骨盤の上方」に巻くと、今度は恥骨結合が開く方向に力が働くため、逆効果となり、恥骨や腰の痛みなどが増すことがあります。
産前の場合はお腹が大きくなる位置ですので、この位置に巻く方はいないでしょうが、産後は骨盤上方に巻かないように注意が必要です。
苦しかったり、痛かったり、しびれたり、尿意を感じたり、といった体への違和感を感じる場合は適切な装着方法ではありませんので、正しい位置に、適切な強さで装着してください。 

締めつけ加減について、明確な基準はありますか?

「使用者本人がラクだと感じる程度の強さで締める」というのが最も明確な基準になります。
緩すぎると「物足りない、効果がない」、きつすぎると「お腹が張る、苦しい、痛い、しびれる」のようにご本人が感じるからです。
このような感覚は、ご本人でないとわかりません。
またそもそも、ラクだと感じる強さというのは、個人差(体格・症状など)があり、また同じ個人であっても、日によって、または装着の経過などによって変化します。
従って、定量的な基準により締め加減を決めること自体が良いことではありません。

使用頻度や1日の使用時間の目安はあるのでしょうか?
1日中装着していて良いのでしょうか?
睡眠中も装着していて良いのでしょうか?

使用者ご本人がラクだと思う間は着けていて構いませんが、就寝時、リラックスしたい時、もちろん排尿、排便、入浴の時ははずしてください。
睡眠中は感覚が鈍くなるので、血行障害などの違和感を感じずに着け続けてしまう恐れがあります。

産後はいつから使い始めるのが良いでしょうか?
またいつまで使い続ければよいでしょうか?

産後の装着開始時期は、産後2~3週間目からお使いいただくのが望ましいです。
産後1ヶ月間は子宮から悪露(おろ)という出血がありますが、出産直後からベルトを付けてしまうと、悪露が出にくくなる可能性があります。
そこで出血が褐色になる頃、つまり産後2~3週間目から使い始めてください。
その後、いつまで使うかは個人差が大きく一概には言えませんが、腰や恥骨の違和感が少なくなって来たら外していただいて結構です。
そしてよく歩くことを心がけてみてください。
歩くという行為は骨盤を調整する効果があります。
産後でもベビーカーや抱っこ紐に赤ちゃんを乗せて、1時間ウォーキングするように習慣づけると下半身の筋力UPにもなります。
あと赤ちゃんの体重が重たくなってずっと抱っこしてあやさなければならない時、半年ぐらいで夜泣きなどが出てくる頃などにまた装着するとよいでしょう。

産後、かなり経過してから(1ヶ月とか半年とか)装着を始めても効果はありますか?

ベルトの機能としては、単純にゆるんだ骨盤を締めて固定するだけのものです。
ですので基本的に、装着時期は問いません。
骨盤がゆるんでいるために、腰や恥骨結合に違和感を感じている方であれば、固定することにより骨盤が安定するという効果が得られます。

骨盤ベルトを、恥骨の高さに巻かなければいけないのは、産後いつまでですか?
一般のパワフルギアの位置(仙腸関節の高さ)に巻くのはかいつからですか?

妊娠・出産が原因で、恥骨や腰に違和感が生じた方は、恥骨の高さに装着してください。
その他の原因の場合(加齢・疲労など)は、仙腸関節の高さに巻いてください。

滑車の効果できつく締まるが、きつく締めすぎても問題ありませんか?

きつく締めすぎないようにしてください。
きつく締めすぎると、血行障害などにより、シビレ、痛み、だるさ、張りなどの違和感、不快感が生じる可能性があります。
ご自分がラクだと思う程度、気持ちが良いと思う程度の強さに締めるのが正しい使い方です。
使用中にもし違和感を感じたなら、すぐにゆるめるか、使用を中止してください。

パワフルギア®Fの仕様について

「F」にはどうのような意味がありますか?

品名の「F」には「For マタニティ&ママ」「胎児(Fetus)にやさしい」「フリー(Free)サイズ」などの頭文字をとっています。

従来の骨盤固定ベルト「パワフルギア®・スリムタイプ」との違いと、その具体的な利点は何でしょうか?

主に以下のような点が異なっています。

・メインベルトとパワーベルトの生地の厚さが薄くなっています。
 →恥骨の高さに巻いて座ったときにお尻の下で生地がゴワゴワしない、アウターに響きにくい。
・背面の伸縮ゴムがなくなっている。
 →引っ張りながら巻く必要がないので、お腹の大きな妊婦さんでも、装着しやすくなっている。

産前産後用として使い終え不要になったら、その後は一般用の骨盤ベルトとしてご使用いただけます。
腰がだるい・重い・疲れた時や、腰を使うような作業をする時などに、骨盤(仙腸関節)を固定するとラクになります。