コナミスポーツマスターインストラクター大石鉄也のサッカーコラム SOCCER COLUMN by Tetsuya Oishi

第98回全国高校サッカー選手権大会を観て感じたこと

vol.81 | 2020/02

今年は暖冬で全国的には暖かい日が続いているようですが、サッカーをして汗をかいた後は、早めに着替えをして、暖かい恰好に心がけましょう。風邪やインフルエンザがはやっていますから、手洗いうがいを忘れずに、しっかり予防をしていきましょう。

今月は、12月30日~1月13日にかけて熱戦が繰り広げられた全国高校サッカー選手権のお話をしたいと思います。

■トーナメント方式の大会ではあるけれど

全国高校サッカー選手権は、全国各地の予選を勝ち上がってきた代表校が集まり、トーナメント方式で試合が開催される大会です。
トーナメント方式で行われる大会は、リーグ戦と違い、目の前の試合に勝つことが出来なければ次の試合に進むことは出来なくなります。負けたその時点で、出場校の選手権は終わってしまいます。そのため、前回大会までは、一つでも多くの試合を勝ち進むため、出来るだけリスクを負わず手堅い戦い方をしてくる学校が多かったように感じていました。
リスクを負わない手堅いサッカー(戦い方)とは、簡単に言うと、守備に重点を置き、ボールを失うリスクを減らすために、ボールを持つとすぐに相手のエリアに向けて大きく前にボールを蹴り出すようなロングボールが多くなる戦い方のことです。
そうすると、大きく前にボールを蹴り出す展開が多くなるため、選手個々の持つ技術を活かしたアイデアやイマジネーション溢れるプレーが、試合における攻守に活かされる回数が少ない戦い方になります。サッカーは、選手同士が持てる技術を駆使して駆け引きし、ドリブルやパスでボールを繋ぎながら相手のエリアを突破していくプレーに魅力があると私は考えています。
 ところが、今年の選手権は少し雰囲気が違いました。前回と比べ、多少リスクを負うような場面であっても、攻撃的で選手個々の特徴を活かし、アイデアやイマジネーションを発揮するプレーを魅せてくれる学校が増えてきたと感じました。
例えば、相手にボールを奪われるといったリスクを負ってでも、ドリブルやパスを織り交ぜ工夫して、相手の陣地に向かって積極的に攻めていく姿勢が多く見ることができたと感じました。
トーナメント方式の大会においても、試合内容にこだわり、選手育成に重点を置く学校が増えてきていると感じることが出来たことは、選手の育成を重視するべきと考えている指導者の一人として、高校サッカーは良い方向に進んでいるのではないかと感じました。

■高いレベルでボールを扱える技術の強み

サッカーは、主に足でボールを扱う競技です。
ただ、ボールを大きく前に蹴ることであれば、ある程度の力がつけば誰にでも出来ることです。ボールを扱う技術がしっかりと身についていない選手の場合、フリーの状況をはじめ、あらゆる場面で、ただ単に大きく前にボールを蹴り出してしまうといったプレーが多く見られます。
では、ボールを扱う技術がしっかりと身についている選手とどのように違うのでしょうか。技術が身についている選手は、しっかりとボールを扱うこと、すなわち、運ぶ、かわす、いなす、つなぐといったプレーで、対峙する相手選手と駆け引きし、相手のバランスを崩し、相手の裏をかけ、相手を引き寄せることで、様々な場面で相手に対して数的優位な状況を創り出すことが出来るようになります。
 サッカーにおいて、止める・運ぶ・蹴るという技術がなければ、試合の流れの中で相手を崩すことは出来ず、得点するチャンスを作りだす回数は少なくなります。
もちろん、セットプレーでチャンスを作ることは出来ますが、セットプレーばかりに頼ったサッカースタイルでは、これからのサッカーにおいては、やはり勝利を得続けることは難しくなっていくと感じています。
今回の選手権でも、ボールを扱う技術レベルが高い学校の試合は、観ていて素晴らしい内容であり、そのプレーの数々に驚かされ、引き込まれ、試合を大いに楽しませてくれました。何よりも印象的であったのは、プレーしている選手が本当に真剣に楽しそうな表情でサッカーボールを自由自在に扱っている姿でした。
ボールを扱う技術レベルが高ければ高いほど、ボールを失わない、相手をかわせる、ボールをはたけることが流れの中で自然に出来るので、試合の中で数的優位を作る回数が圧倒的に増え、得点チャンスを多く作ることができます。
ボールを扱う技術はサッカーをしていくうえで絶対的に必要だと私は改めて感じました。

■優勝した静岡学園について

今回の選手権は、静岡学園が優勝しました。私の出身校です。
決勝当日は、私もかつての仲間たちと先輩、後輩たちと一緒にスタジアムで声援を送り、本当に素晴らしい試合を楽しみました。勝負について優勝したことをとてもうれしく感じたとともに、勝負以上に充実した試合内容に改めて確信したことがあります。

静岡学園のサッカーは、個人技術レベルが非常に高く試合内容も素晴らしかったと思います。あれだけボールを扱う技術レベルが高いのは、日々の練習において技術・テクニックを身につけることに本当に拘り徹底してリフティング、ドリブルを練習しているからです。毎日の練習において、リフティング・ドリブルの練習に1時間以上の時間を費やします。さらに部員たちは、自主練習でリフティング・ドリブルの技術に磨きをかけています。

静岡学園の部員は、ボールを扱う技術レベルに大差はありません。ですので、プレーにおいていかに人と違うことをするか、いかにそれを自分のモノにするか、アイデアとイマジネーションを発揮して、チャレンジしモノにすることが、レギュラー争いのカギを握っていました。もちろん、チャレンジをすればミスをすることもあります。ただ同じミスでも、意味のあるミスと単なるミスでは天と地の差があるのです。自分で考えてトライした結果のミスは、すごく大切であり、ワンパターンな選手ではつまらない。いかに相手が想像できない独創的なプレーをしつづけることが大切かということに徹底して拘った「静学スタイル」と呼ばれる指導が、井田前監督時代から今も脈々と引き継がれて行われています。
ボールを自由自在に扱えるための技術練習に費やす努力と時間、相手が想像もつかないアイデア溢れるプレーにチャレンジすることを本当に重要だと考えて繰り返してきた練習の積み重ねが、決勝の大観衆(56,000名)が見守るスタジアムで、2点ビハインドの中でも、自分たちの努力を信じ、仲間を信じ、高い技術力、素晴らしいテクニックを如何なく発揮することで逆転し優勝をつかみ取るという結果につなげることができたのだと思いました。

■まとめ

私は、高校生までは育成段階だと考えています。
「勝つこと」と「選手の個性を伸ばすこと」の両方が実現できればそれほど素晴らしいことはありません。しかし、現実的には非常に難しいチャレンジです。
それでも、手堅いサッカーではなく、選手の個性を最大限に発揮させて、常に自身のボールを扱う技術力で工夫しながら試合を組み立て、結果的にチーム力のアップにつなげていくことが大切だと思います。
育成段階での指導者の役割は、選手の性格、特徴を理解した上で自由にプレーさせ、ポジションやその役割を限定し過ぎないことが重要だと私は思っています。
流動的にポジションチェンジし、選手が個々のアイデアで局面を打開できるようにするためには、普段の練習から常にチャレンジさせることが大切です。

コナミスポーツクラブサッカースクールでも、ボールを扱う技術レベルを高めるために、
日々技術指導に拘りを持って指導し、技術が身につくことでサッカーがもっと楽しくなることを実感してもらうようにします。
そして、常にチャレンジする環境を子どもたちに提供し、子供たちの成長に繋げていきます。

プロフィール

大石 鉄也

1979年11月26日生まれ。静岡学園高等学校から川崎フロンターレ入団。(在籍8年)川崎フロンターレ在籍時代に1年間、ブラジルグレミオに留学。2004年に現役を引退。現在は、子どもたちへの指導を行いつつサッカースクールカリキュラム開発及び指導者の育成にあたる。