第93回全国高校サッカー選手権大会を観て感じたこと
vol.23 | 2015/02
前回に続き、全国高校サッカー選手権のお話をしたいと思います。今大会、私はテレビで7試合を観戦しましたが、各校の特徴がはっきりと見て取れ、色々と考えさせられました。
今回は勝ちにこだわり、リスクを負わない手堅いサッカーをする高校が多かったと思います。当然、学校ごとにスタイルや戦術が違い、それらは各監督のサッカー感が反映されていますから、よしあしの判断は難しいものです。しかし私は、手堅い戦いは選手の特徴やアイデアを消してしまうと懸念しています。
多く見受けられた戦術は、DFが大きく前に蹴り、こぼれ玉を拾ってサイドに展開、サイドから必ずクロスボールを上げるというもの。しかもポジションが固定され、ポジションごとの役割を徹底している高校がほとんどでした。時間の経過と共に攻め悩み、選手が焦り出した結果、ロングボールばかりの展開という試合が目立ちました。
私は、高校生までは育成段階だと思っています。つまり、「勝利」と「育成」をバランス良く指導することが1番大切ですが、現実的には非常に難しいことです。しかし、それでもそれを達成するためには、選手個々の特徴を最大限に発揮させてあげ、結果的にチーム力のアップにつなげていくことが必要だと思います。
指導者は選手をロボットにしてはいけません。選手の性格、特徴、ストロングポイントを理解した上で自由にプレーさせ、ポジションやその役割を限定し過ぎないことが重要なのです。流動的にポジションチェンジし、選手が個々のアイデアで局面を打開できるようにするためには、普段の練習からチャレンジさせてあげることが不可欠です。
「サイドでボールを持ったら、ゴール前にクロスボールを上げる」という固定観念でプレーしていては、それ以上は成長しません。サイドからドリブルで切り込む、ショートパスを使って中央に入っていくなど、相手の状況を見てさまざまなプレーを選択できなくてはならないのです。
相手にとってプレーの読めない選手が多ければ多いほど、相手の守備陣は苦戦します。裏を返せば、ワンパターンの攻撃は相手からすれば非常に守りやすいのです。先程、「攻め悩む」という表現を使いましたが、それはワンパターンの攻撃しか選択肢がないからです。だからこそ、各校の監督には選手の特徴やアイデアを最大限に生かしたスタイルを作り上げていただきたいと思います。
勝利によって得られる喜びや自信を、選手に教えてあげることも本当に重要です。しかし、まだ育成段階である高校生だからこそ、勝利に特化して選手の特徴を消してしまう指導方針には賛同しかねます。選手個々の成長と同時に、勝つ喜びや負ける悔しさを伝えられる指導者が数多くいたら、高校サッカーからより多くのプロ選手が生まれるだろうと思います。
プロフィール
大石 鉄也
1979年11月26日生まれ。静岡学園高等学校から川崎フロンターレ入団。(在籍8年)川崎フロンターレ在籍時代に1年間、ブラジルグレミオに留学。2004年に現役を引退。現在は、子どもたちへの指導を行いつつサッカースクールカリキュラム開発及び指導者の育成にあたる。