1964年8月24日パキスタン上空――。
ひとりの男がはるか上空からソビエト連邦の領地へ降り立った。男のコードネームはネイキッド・スネーク。彼の任務はソ連領内へ単独潜入し、かつてアメリカに亡命していたソ連の兵器開発者ソコロフを奪還すること。それがゼロ少佐率いる特殊部隊FOXが立案した「貞淑なる作戦(バーチャスミッション)」だった。無線によるバックアップはスネークの師匠にして伝説の兵士ザ・ボスが担当。スネークは武器を現地調達し、ジャングルをサバイバルしながら、ソコロフとの合流地点にたどり着く。
その直後、スペツナズのエリート兵士オセロット率いる山猫部隊がスネークを襲撃する。脱出を計ったスネークとソコロフは、合流地点目前でひとりの女性兵士に出会う。その女性兵士はスネークの師匠ザ・ボスだった。彼女は、スネークを吊り橋から投げ落とすと、ソコロフを連れ去ってしまう。スネークが目覚めたとき、ソコロフの秘密設計局は核爆発に巻き込まれていた。
作戦は失敗に終わった。ゼロ少佐は汚名を晴らすため、特殊部隊FOXの存続をかけた最後の作戦「スネークイーター作戦」を立案する。その目的はソ連に核攻撃を仕掛けた、アメリカの裏切り者ザ・ボスの抹殺、ソコロフの奪還、ソコロフの開発した新兵器の破壊。失敗すれば、ソ連とアメリカの全面核戦争が勃発するかもしれない。スネークは我が師を殺すという、残酷な任務を引き受ける。
1964年8月30日「スネークイーター作戦」発動――。
超音速機YS-12から切り離されたドローンでソ連の地に再び降り立ったスネークは、ザ・ボスの痕跡を追う。その前に立ちはだかるのはザ・ボスとともに世界中の戦場でその名を轟かせてきたコブラ部隊。<至高の痛み>ザ・ペイン、<至純の恐怖>ザ・フィアー、<真実の終焉>ジ・エンド、<無限の憤怒>ザ・フューリー、<深淵なる悲哀>ザ・ソロー。そしてオセロットもまた、スネークをつけ狙っていた。
敵地へ単独潜入したスネークは、ソ連側が用意した内通者EVAと接触する。EVAの手引きに従い、ソコロフが捕えられているという大要塞グロズニィグラードへ。そこはGRUのヴォルギン大佐の本拠地であり、「賢者達」と呼ばれる支配者たちの財産「賢者の遺産」の隠し場所だった。
スネークがたどり着いたとき、ソコロフのロケットエンジン技術を用いた核搭載型戦車「シャゴホッド」は最終開発段階へ達していた。この戦車が完成すれば、西側諸国は脅威にさらされる。スネークは「シャゴホッド」の爆破を試みる。だが、ヴォルギン大佐はそれを見逃さなかった。
ヴォルギン大佐との対決の行方はどうなるのか、スネークを追う好敵手オセロットとの駆け引き、そして祖国アメリカを裏切ったザ・ボスの真意とは? 『メタルギア』シリーズの原点となる「ビッグボス」誕生のエピソードが紐解かれる。
「敵に見つからないように隠れて、敵地へ進む」。このゲームデザインは『メタルギア』シリーズに共通して受け継がれているものだ。しかし1998年に発売された『メタルギア ソリッド』のヒット後、国内外からいくつものステルスゲームがゲーム市場に登場した。『メタルギア ソリッド 2』では、そのゲーム市場の変化を「メタルギアの亜種がブラックマーケットで氾濫した」とストーリー上でたとえたが、もはや「ステルスゲーム」は珍しいものではなくなったことは事実だった。
その状況に対する『メタルギア ソリッド 3』のアンサーは明確なものだった。より進化したゲームデザインを披露したのである。コンセプトは「サバイバル」。スタイリッシュなアクションから、生々しく肉感的なステルスアクションへ。舞台は人工的な建物から、大自然のジャングルへ。敵兵に見つからないために、ただ物陰に隠れるのではなく、大自然と一体化することで、自らの気配を消し去り、敵に一切感づかせない。ジャングルに潜む蛇のように。人間ではなく動物になりかわるように。より高度なステルスアクションが提案されていたのだ。
『メタルギア ソリッド 3』で採用された、周囲の環境にあわせて偽装する「カムフラージュ」と怪我をしたときに自分で傷を治療する「キュア」、動植物たちを仕留めて食糧にする「フードキャプチャー」という三位一体のゲームデザインは、まさに「新しいステルスゲーム」への挑戦だったのである。
ゲームは常に進化していく。これらのゲームデザインの進化は次回作の『メタルギア ソリッド 4』にも引き継がれている。
第二次世界大戦以後、世界は二分された。アメリカを中心とした資本主義体制、ソビエト連邦を中心とした共産主義体制。両体制はお互いを仮想敵とみなし、約50年にわたり軍事的、経済的、政治的に対立した。 その対立構図が露出した例が、『メタルギア ソリッド 3』で扱われている「宇宙開発競争」と「キューバ危機」である。
「宇宙開発競争」はソ連が1957年に世界初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げたことに始まった。「宇宙開発競争」に勝ち、宇宙を手に入れることは絶対的な制空権を手に入れることであり、同時に広大なフロンティアを得ることになる。4ヵ月後、アメリカは人工衛星エクスプローラー1号を打ちあげるが、1961年にソ連はボストーク1号を打ちあげ、人類初の有人宇宙飛行を実現する。大国にとって「宇宙開発競争」は譲れない仮想戦争だった。
「キューバ危機」は1962年にソ連が核ミサイルを、アメリカの隣国であるキューバに配備しようとしたことが契機となった。そのとき配備された中距離ミサイルの射程距離は1500キロといわれ、キューバからワシントンやセントルイスが射程圏内にあったという。射程内のミサイル配備が、戦争の勝敗を決定する時代がやってきたのである。
『メタルギア ソリッド 3』はその両者を一本の線でつなぐ物語を描いている。その一本の線とは「ロケットエンジン技術者『ソコロフ』の運命」である。一度はアメリカへ亡命したソコロフがソ連へ返還されたのは「キューバ危機」が原因だった。返還されたソ連で彼はロケットエンジン技術を使って、新兵器の開発に従事する。そのソコロフをスネークは救出に向かうのだが……。
こういったケースは史実でも起きていた事件だ。1942年ナチス・ドイツにいたロケットエンジン開発者のヴェルナー・フォン・ブラウンは液体推進燃料による「A4ロケット」を開発した。この「A4ロケット」は第二次世界大戦時にナチス・ドイツにより、「V2ロケット」としてヨーロッパ西部戦線へ実戦投入される。戦争末期にフォン・ブラウンはアメリカへ亡命。1958年にアメリカ初の人工衛星エクスプローラー1号の打ち上げに成功する。まさしく彼のロケットエンジン技術が「宇宙開発」と「兵器開発」の両方を左右したのだ。
相手の顔が見えない距離から、ボタンひとつで敵をせん滅してしまう超長距離兵器の誕生は、戦争を変えてしまった。緊張状態が続く冷戦下では、敵が反撃できないような長距離から攻撃する技術の有無は、「キューバ危機」のように国家の存亡を左右することにもなりかねない。「肉弾戦」から「見えない戦争」へ。ソコロフの悲哀を通じて、冷戦の転換期を『メタルギア ソリッド 3』は描いているのである。