「アヌビス」レジンキット原型師:浅井真紀氏インタビュー 第3回




「今回に関しては、歯車でもいいと思っていたんですよ。」 浅井氏はそう言い切った。
アヌビスを造型するにあたって、自分の色を出すのではなく、あくまでユーザーの立場で、
何が求められているのかを考えた末に決意をしたという。

造型師:浅井真紀、インタビュー最終回。




村田: 未来への夢は膨らみますけれども、今回のアヌビス自慢ってありますか?

浅井: ホントはいけないんですけど、できたそばから悲しくなっていくんですよね。
モノを作っていると、ありませんか?

一同: うわぁ~(嘆)

(その衝動は)かわせないといけないですよねぇ。

浅井: そうなんですよね…今回のアヌビスは、可動にするなりの意味を持たせたかったんです。とりあえず可動とか、フル可動っていうのが謳い文句になっちゃうだけっていうのが嫌で、触って面白くないと意味がないとは思っていたんです。触ってナンボであると。動かすことで…プレイバリューって言葉がありますけど、本当にプレイすることがバリューになっているのかっていう疑問がいろんな物に対して結構あったんで…それは悪意ってことではなくて、例えばプラモデルを買ったときに、可動するのは当然として買っているじゃないですか?慣れてしまってますよね。だから刺激になるというか、想像しづらい可動、動かしてみて、そこで初めてハッと面白く感じるっていう経験を込めたいなと思っていたので、今回のアヌビスに関しては何よりも触ってもらって、「あ、何か思っていたよりカッコいい」とか「思っていたより面白い」と思ってもらえるのが一番いいなぁと…ただ、それって買ってもらった後の話なんで…

新川: 作んないといけないしね。(笑)

浅井: そうなんですよね。(笑)(楽しんでもらうために)まずその前にものく高い壁があるので、買ってもらうための材料にならなかったりするんですよ。でも、パーツの量に比べて、比較的に簡単に組めると思うので、とりあえず未塗装でもいいから組んでもらってカチャカチャ遊んだ時に初めて…真価が発揮とまではいいませんけど…込めたモノが見えてくるかなと思うんですね。だからホントに動かして遊んでもらいたいんですよ。











村田: 最初こんなに動くとは思っていませんでしたよ。

浅井: (現物)今日持ってくればよかったですねぇ…。最後に村田さんに触ってもらったやつと、完成品とでは動く範囲と量が全然変わってますよ。

村田: また増えたんだぁ…そういう話を聞くと、浅井さんはそういうコツコツ型だなぁと思うんですよ。

浅井: いやぁ、すごい小心者なんですよ。例えば、大体こんなもんかなって思って、出来たつもりで寝てるじゃないですか…そうすると「評判悪かったらどうしよう…」「これで誰かに迷惑をかけたらどうしよう…」って思いはじめて寝られなくなって。すると何かやってないと不安でしょうがないからドンドン足しちゃうんですよ。で、結局時間いっぱいまで何度も作り直しちゃう悪癖が(笑) 今回アヌビスは、最終的なモノの前段階で雑誌に掲載する機会がありましたんで、一度暫定的に完成させる機会があったんですけど、それをイジってる時に、スペックとしてこれだけの箇所を動かせたけども、でも演技が出来ないって思ったんですよ。動いてるだけで、けっして演技がとれる訳じゃない。関節って動くことが目的じゃなくて、こういった動作、こういったポーズという目的があって、そこへ辿り着くための順路でしかないと思うんです。点として存在している可動部分が、線として繋がって何処かに行き着かないと意味がないって思ったんですよね。で、前回(製品版の前段階)の『腕を組む』ていうのは、単に腕が『こうなっているだけの話』(※写真、左上参照)だったんです。今回は、ポリゴンでは確かに『こうなるまで組んで』(※写真、左下参照)ますから、これがアヌビスなりの腕組み演技である、としてやってます。最終的に腕の関節が「こう」とはいきませんけど…手首が動かないんで「こう」はならない(※写真、左中参照)…でも、こっちの手がココにささるまで動かそう(※写真、左下参照)と思ったんですね。こうなって初めて腕組みの演技だろうと。パッと見て、腕組みに見えるかどうか…そんな作業を延々とやっていたんですけど、雑誌にはその写真が載ってなかった(笑)うわー、意味無えーって(笑)、でWEBの方で掲載しているんですけど(汗)

村田: いやぁ、凝り性だと思いますわ…。

浅井: 単に小心なだけですよ。(笑)

村田: 面白いのは、ロボットのフィギュアを出すっていって、売りが『腕組み』って。(笑)



浅井: あと、あれですね。ゲームの中でアヌビスが動いているシーンってあんまり無いじゃないですか。動いていても戦闘中だったりすると、あんまり記憶に残せないですし。そんな中で僕自身が印象に残っているシーンは、腕組み以外だと…切りまくって瞬間移動するシーンだったんです。可動を増やしたバージョンを作っているときは、その動きが一連の動作として線になってカッコよく繋がるようにしたいと思ったんですね。ポリゴンだと、こう、こう、こう動いて見える、じゃあ俺的な美意識で、こう、こう、こう繋げよう!っていう事を考えて、そこに至るまでの順路を作るっていう意味で、肩の関節を増やしたり…ていう感じでしたね。

村田: そうか…でもポーズがありきの関節ですものね…確かに。

浅井: そうですね。ましてや、以前発売になってる海洋堂の山口さんのジェフティが演技がとれるものだったんで、サイズも同じですし、可動という言葉の上でのスペックも一緒…するとユーザーさんの視点では同じような製品だという認識になると思うんですね。となると当然、ジェフティと並べたいと思うお客さんがいる。そう考える以上、片方が演技が出来て、もう片方が出来ないんじゃ厳しいなと思ったんで…そうじゃなければ、半端な可動なんかは捨てて、アヌビスとしてキャラクター的に成立している立体を1体作った方がいいと思いますし…可動にするのであれば可動にする意味が欲しかったです。

村田: 僕が子供の頃、いっぱい関節が動くウルトラマンのおもちゃがあって、スペシウム光線が出来たんですよ!それまではソフビだからスペシウム光線のポーズが取れないじゃないですか。そういう意味では、このレジンキットはアヌビスのスペシウム光線な訳ですよ。

浅井: そう見えてると嬉しいですねえ。僕にとって動かすって言うのは、すべからく演技に至るまでの手段でしかないんで…




演技するフィギュアにこだわる浅井さん。
そこにはお客さんへの想い、組み立てキットへの誘惑が込められていた。







浅井: 今回アヌビスを作るって際に、浅井真紀がやるんだって事には、さして意味が無いと思っていたんですね。それよりもお客さん自身が望んでいるのは、アヌビスっていうゲームがあって面白かった、そのゲームのファンであると。だからそのアヌビスの良い立体が欲しい、良い模型なりトイなりが欲しいんだ。だったら僕はバイパスになりたい。という部分だったんで。

村田: それは…一番最初に惚れて頂けたのが何よりだったんでしょうね。そのファン心理を捉まえられるのは、まさにそうですよね。仕事でも、もちろんやってもらえるものなんでしょうけれども、好きと言ってくれる人の作るモノを僕らも欲しいなと思うし。好きだと言ってくれたんなら、後はもう好きにして下さいって。

新川: 多分、アヌビスファンの人が買ってくれて、こう…組んでいって、一個ずつパーツを外して「あぁ、コレこうなっていたんだ。」みたいな、そういうところも楽しめるし、段々それが出来ていくと、作ってるユーザーの人が…作ること自体が楽しいと思うんだけど、僕がアクションフィギュアとかあんまり興味が無いのは、最初から出来ていて、組み立てるという一番楽しい部分が無いのに何で買うんだろう?って僕は思っちゃうんだけど。まぁ、究極をいくと自分でイチから作るのが一番面白いんだけど…。

村田: それはでも、自分で作れちゃうからですよ。

新川: そうかなぁ。

村田: 作れない人間にとっては、アクションフィギュアは嬉しいですもん。



浅井: あと、作り応えがあるっていうのと、作り難いっていうのって、実は全然違うじゃないですか。僕自身が組み立てる事にストレスを感じてしまうタイプなんですけど、例えばプラモデルを作っていて、いい設計だなぁ…って思うのは、作っていて楽しいんですよ。キツい設計って言うのは、すぐイライラしてきて飽きちゃうんです。同じ作業ばっかりやらされているよ、みたいな。それが嫌だったんで、今回のアヌビスでは、僕自身が組んでみて楽しみながら組めるようにしようと思ったんですね。レジンキャストっていう素材は、プラモデルみたいに左右を張り合わせて、その合わせ目を消してっていう作業は、不可能ではないけれどほとんどの人には無理だろうっていう素材なんですね。それは全部無くそう、やっててストレスになるのはやめよう。例えば色の部分でパーツが割れていて、ピタッとはまる。バラバラのパーツいじっていてニヤニヤ笑う瞬間ってあるじゃないですか、それを入れたかったっていうのがあるんですね。

新川: 楽しいヨ。キャストキットってプラモより楽ですよね。

浅井: 実は全然楽です。

色は塗れないけど、作ってみようかなぁって思いますね。

新川: 僕はねぇ、塗らないほうがいいと思う。

浅井: 正直、色を塗ってないほうが全然評判がいいんですよ。(笑)
どうしても、色でディティールが見えなくなっちゃうんですよ。

新川: もったいない。

浅井: グレーで見ると、「あっ、何かいっぱい彫ってあったんだ。」って言われてガッカリ。みたいな。(苦笑)











最後に浅井さんから、皆さんへのメッセージをお願いいたします。

浅井: 本当にこのキットは遊んでナンボのもんだと思います。作った時よりも、周囲の反応を見た時にそう思いました。いろんな人に遊んでもらったんですね。そしたら遊んでもらった際に毎回出る反応っていうのが、写真で見た時とか、現物をパッと見た時より、ずっと評価が上がるっていう… 思っていたより全然良かったと言われるんです。

新川: ゲームの方も、そうなんですよ。

一同: (爆)

浅井: 思っていたより全然良いので…コレは、浅井談ではなくて、周囲の反応談なので、騙されたと思って…

新川: ゲームと同じですねぇ(笑)

村田: 何か『アヌビス』に付きまといますね、そういうの。関わる人間が思い入れが深いって言うのも…『アヌビス』ってそういうソフトなんですね。

浅井: まぁ、そういう意味では「わ~い。アヌビスに関わった一員だぞ~」って(笑)

村田: こちらこそ、嬉しいです。

新川さんから、監修としてメッセージを。

新川: やっぱ、僕も触ってみて思ったんだけど、アクションフィギュアとはまた別の方向性で動かして面白いものっていうのは、これで表現できているのかな。 アクションフィギュアだと、肩の関節と胸のスライドとか、こんな繊細な部分っていうのは出来ないんです。レジンキットのアクションフィギュアだからできてるっていう部分なんですよ。実際自分が組んでみると面白いだろうなぁと僕自身も楽しみにしています。

浅井: あとオービタルフレームって、今回のシェーディングとかでもそうなんですけど、色の印象とかっていうのがユーザーさんによって物凄い幅があると思うんですよ。これって明確に決まったものが無いんで。だから塗装のできる環境のある人は、ちょっと塗って欲しいなぁと思いますね。この人ならどう見えている、っていうのが凄く興味がありますね。

新川: WEBコンテストとか…

一同: やりますか?(笑)


 浅井真紀インタビュー 完 



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